2016年8月30日火曜日
第169回HCI研究会「消極性とインタラクション」の衝撃
HCI研究会に参加し,運営に関わりました.
(ちなみに開催地の源平荘は関門海峡のそば,ふぐ料理が最高においしい宿です.)
大変画期的だったのは,「これは消極性に関する学会じゃないの?」と錯覚するくらい,密度の濃い消極性研究の議論ができたことです.
研究会というのは,毎回テーマを決めて発表を募集するのですが,そこまでテーマに寄せてわざわざ研究する人も少ないので,往々にして形骸化しがち(つまりテーマに密接に関わった研究が集まりにくい)なのですが,なんと初日の最初の3セッション8発表が消極性にダイレクトに関わるものでした.それを象徴するように,「消極性」を冠するセッションタイトルがついたのです!(これもとてもめずらしいことなのです.)
【セッション1:消極的な人】
【セッション2:消極的なシステム】
【セッション3:コミュニティ内の消極的な人】
また,夜の特別セッションにおいても消極性研究会が企画進行を努め,盛況でした.
それぞれの研究発表について,簡単な紹介をしたいと思います.★は私の感想です;
【セッション1:消極的な人】
(1) 大人数コミュニケーションへの参加を促すチーム対戦型貢献度可視化手法の提案
西田 健志(神戸大学)
人が集団で議論するときなどに発言量などを計測して個人の活動度合いや集団への貢献度を可視化する研究はたくさんある.しかしそれは集団といっても小集団である.たとえば学会での議論のような100人規模になったとき,どのように可視化すればモチベーションを保ちつつ,消極的な人も支援できるかを検討した.その際,オンラインゲームでよく用いられている,ユーザを少ない数の「チーム」に分けて貢献を可視化する方法が良いのではないか,という仮説が検討された.★ポケモンのチーム分けのような感じでWISSでチャットしたい.
(2) 消極的なメンバー間でも利用できるグループ休憩自動提案システム
鏑木 寛史(筑波大学), 神場 知成(日本電気株式会社), 村上 隆浩(ビッグローブ株式会社), 嵯峨 智(筑波大学), 田中 二郎(筑波大学)
集団で作業している時,「いま休憩したいけど,みんな頑張ってるし・・」という気持ちで休憩提案をためらい,実は他の人もそう思っているのに休憩が実現しないことがよくある.これを防ぐために生体情報から休憩すべきタイミングを自動検出し,過半数のメンバーが休憩必要状態になったときにシステムが休憩を提案するシステムを構築した.★生体情報から休憩タイミングを判断するだけでも相当難しいから,認識技術をつかわずユーザによる手入力にして,私どもの咎責嫌悪の研究のように人工知能を偽装して通知するとよいと思った.
(3)リアクティブな学習者を対象とした学習支援システムのデザイン
三浦 元喜(九州工業大学)
これまで著者が大学教育のうえで開発・運用した複数の学習支援システムについて,学習者の消極性に注目した場合にどのように問題があったかを検討した.★消極性を学習理論や心理学の観点から整理しており,参考になる点が多かった.
【セッション2:消極的なシステム】
(4)Ad-vice: スマホ広告を装って伝えにくいことを伝えるシステムの提案
浅山 広大(神戸大学), 西田 健志(神戸大学)
「鼻毛が出ている」のように,本人に伝えにくいメッセージを伝えるために,スマホサイトの広告バナーに偽装して伝える方法の提案と検証.★広告に偽装するなら広告業界で使われているあらゆるノウハウや広告の効率に関する知見を総動員して徹底的にやるとよいと思った.
(5)ユーザに気づかせることなく書写技能を向上させる手法の提案
久保田 夏美(明治大学), 新納 真次郎(明治大学), 中村 聡史(明治大学), 鈴木 正明(明治大学), 小松 孝徳(明治大学)
タイトルの通り.★内発的動機づけ,外発的動機付け,無意識,この辺のキーワードが重要な,とてもおもしろいコンセプト.学習とかスキル獲得に関する新しいパラダイムを切り拓けような気がしました(もし教育研究分野で未提案なら.).
【セッション3:コミュニティ内の消極的な人】
(6)手書き文字に対する書き手識別と好感度に関する調査
斉藤 絢基(明治大学), 新納 真次郎(明治大学), 中村 聡史(明治大学), 鈴木 正明(明治大学), 小松 孝徳(明治大学)
自分の書く手書き文字に関する識別能力と愛着に関する研究.★応用そして,他人(の女の子)の筆跡と自分の筆跡をブレンドすると愛着が・・のような変態的ビジョンがちょっとおもしろかった.
(7)Sharetter: Bluetooth電波と顔認識を利用した被写検知に基づく写真共有
高田 一真(明治大学), 渡邊 恵太(明治大学)
写真を取るという行為は勝手におこなわれてしまうが,取られた側にその写真の所有権がないのはおかしい.だから写真をとったら近接度とかお認識によって周囲にいる人に「映ったかも」という情報を通知し,写真を共有できるようにした.★私どもが昔やったSpeechProtectorと似たモチベーションの研究だと思いました.私どものほうが相当攻撃的ですが・・
(8)osa:家庭内タスクのコントロールと意思決定を担うチャットbotシステム
金子 翔麻(明治大学), 吉田 諒(三菱電機株式会社), 渡邊 恵太(明治大学)
IoT機器が家庭に普及してきて便利になってきているが,「草木に水をあげて」「ルンバのゴミを捨てて」のように,結局人力でやらなければならないタスクの通知が増えすぎて「誰が」そのタスクをやるのかの割り振りの心理負担が増える.そこで,「誰が」そのタスクをやるのかを自動決定し進捗管理するチャットボットを作った.★モチベーションに関する消極性に詳しい渡邉さんらしい,すごく納得の研究だったが,会場から機械に指示されることへの嫌悪とか人間の生身のコミュニケーションが失われる寂しさみたいなコメントが結構出たのが驚きだった.同じ感想を抱いた人は渡邉さんとじっくり話すと良いと思います.
【セッション4: 一般発表 タッチ】
(省略)
【特別企画】
「積極性とインタラクション supported by Diverse技術研究所&消極性研究会」
夜のセッションでは,逆に「積極性」にフォーカスし,Dating ScienceについてDiverse技術研究所から紹介し,それに対し消極性研究会がツッコミを入れるという構成で特別企画を開催しました.
Diverse技術研究所から,特製ビールの差し入れがありました.
・Dating Scienceを積極的に語ろう!
・Datingアプリを積極的にHackしよう!
・消極性研究会からの(ささやかな)逆襲
という構成です.以下が詳細です.
・Dating Scienceを積極的に語ろう!
Dating Scienceの歴史とHCIの関係,Diverse技研の取り組みについて紹介しました.★皆さんの専門分野からの貢献が期待される分野です.興味を持った方はぜひ一緒に研究しましょう!
・Datingアプリを積極的にHackしよう!
弊社製および他社製のDatingアプリを実際の操作とともに紹介し,どのようなHCI研究関連技術がキーテクノロジーになっているのか,男女ユーザに想定される積極性と消極性,インタフェースデザインの違いなどについて論じました.★今,普及しているものの,興味が無い方には触れる機会の少ないDatingアプリの実演は大変盛り上がりました.実演中の弊社社員に対し,アプリ内で女性からの「いいね」的なメッセージが偶然入り,会場がどよめきました!
・消極性研究会からの(ささやかな)逆襲
「そもそもモテるための努力というものは表層的すぎる.我々はもっと自分の実力を磨くための努力をすべきで,それがモテへと繋がるべきではないのだろうか.」という,西田さんからの話題提供がありました.
そして最後に私から,消極性研究会の書籍を執筆中であることがサプライズ告知されたのです!!
消極性のユニバーサルデザイン宣言(仮)
栗原一貴 (著, 西田健志 (著), 濱崎雅弘 (著), 渡邊恵太 (著), 簗瀬洋平 (著)
豪華メンバーによる,面白くてためになる本にすべく,鋭意執筆中です!乞うご期待!
・・というわけで,無理なく少しずつ続けてきている消極性研究会ですが,思想への共感なのか時代が産んだシンクロニシティなのか,その裾野が着実に広がっていることを実感してる今日このごろです.
登録:
投稿 (Atom)